犬猫のワクチン備忘録

犬猫についてのワクチン情報をメモするブログ

WSAVA ①要約

WSAVA(世界小動物獣医師会)のVGG(ワクチネーション・ガイドライン・グループ)により作成されたイヌネコの予防接種に関するガイドライン(2024年版)。

 

【要約】

・WSAVAのVGGはイヌネコの予防接種のガイドラインを作成するために集められた。

・過去のガイドラインは2007年、2010年、2016年に作成され、数百回におよぶ査読論文への引用、数万回ものダウンロードがされてきた。

・本ガイドラインはこれまでのガイドラインのアップデートバージョンである。

ガイドラインの推奨事項はわかりやすく、かつ免疫の基本的原理に沿うべきものであり、詳細な部分が一部の国や地域に適応できない可能性について、VGGは認識している。

 

・本ガイドラインは、獣医師の判断材料として幅広く使用されることを意図しており、標準治療に影響をきたすものではない。

・これらのガイドラインは国や地域レベルの獣医学的組織、そして個々の獣医師に使用され、各自が求める条件にあった予防接種スケジュールを作成することを可能とする。

・VGGはすべてのイヌネコが予防接種の恩恵を受けることを強く提案する。

・これは、単に個々の動物が防御されるだけでなく、“集団免疫”により感染症発生時のリスクを最小限にすることを意図している。

 

・この背景を踏まえた上でVGGは“コアワクチン”を、現在の生活様式や旅行の際の地理的情報を考慮の上、すべてのイヌネコが受けるべきものと定義する。

・コアワクチンには、世界的な流行をみせる致死的な疾患から動物を守るものがあれば、特定の国や地域のみで流行しそれを守るものもある。

・世界のすべての地域におけるイヌのコアワクチンは、イヌジステンパーウイルス(CDV)、イヌアデノウイルス1型(CAD)、イヌパルボウイルス2型(CPV)を防御するものである。

・世界のすべての地域におけるネコのコアワクチンは、ネコパルボウイルス(FPV)、ネコカリシウイルス(FCV)、ネコヘルペスウイルス1型(FHV)に対するものである。

・世界で狂犬病が流行する地域では、たとえ法的義務がなくともイヌネコともに狂犬病ウイルスに対する予防接種は必須と考えるべきである(言い換えると、その地域では狂犬病ワクチンは“コア”である。)。

・イヌにおけるレプトスピラ症はもう1つの生命を脅かす人獣共通感染症であり、世界的に広く分布する。

・イヌのレプトスピラ症が流行する地域において、血清型が既知でありそれに対するワクチンが利用可能である場合、その地域におけるすべてのイヌに対し、レプトスピラワクチンは強く推奨され、またそのワクチンは“コア”と考えるべきである。

・世界の多くの地域において、ネコ白血病ウイルス(FeLV)関連疾患は流行している。

・これら地域にて、若齢猫(1歳未満)や、野外に出ることのできる成猫、そして外に出ることができるネコとともに住む成猫に関し、FeLVワクチンは“コア”であると考えるべきである。

 

・現在利用されているコアワクチンにおいて、若齢のイヌネコでの効能が移行抗体(MDA)によって干渉を受けることをVGGは認識している。

・移行抗体は同腹の個体間であってもその量に差が出るため、VGGは子猫や子犬に対する複数回のコアワクチン接種を2週間~4週間毎に実施し、最終接種を16週齢またはそれ以降に行うことを推奨する。

・費用の制約などにより、子犬や子猫が1回しか接種ができない場合には、その接種にはコアワクチン使用し16週齢以降に行うべきである。

・16週齢以降も移行抗体によって免疫が付与されなかった少数派の動物に対し、免疫獲得を不必要に遅らせないために、(12カ月齢or16カ月齢まで待つのではなく)26週齢または26週齢以降の追加接種が推奨される。

 

・VGGは、追加接種に向けて20週齢時点からの抗体陽転を調べる血清学的検査の使用を支持する(対象はイヌのCDV、CAD、CPV、ネコのCPV)。

・それにより、若齢orヤングアダルトな個体における免疫防御の状態確認が可能となり、成熟した個体における追加接種間隔の最適化に役立つ、さらには条件次第ではシェルター内での感染症発生時の管理への助力も可能となる。

 

・ワクチンは必要以上に使用するべきではない。

・成熟個体においてコアワクチンを必要以上の頻度で接種するべきではない。

・現在多くのコアワクチン(MLV)の免疫持続期間(DOI)は長期間(many years)であると十分な査読論文にて示されている。

 

・VGGは“ノンコアワクチン”を、地理的条件and/or生活様式(野外へのアクセスの有無や多頭飼育など)によりコアワクチンではない感染症接触するリスクがあるイヌネコにのみ強く推奨されるものとして、定義している。

・ノンコアワクチンがそれぞれの患者に推奨されるかどうかについては、獣医師と飼い主との注意深い相談が必要とされる。

・VGGは一部のワクチンを、科学的な情報不足からどの地域でもその使用が推奨に達しない場合、“非推奨ワクチン”と分類している。・VGGは地理的に限られた地域でしか利用できないような少数の“マイナー”ワクチンを検討していない。

 

・“予防接種の相談”とは別に(1年毎、或いはそれ以上の)定期的な健康診断の重要性を飼い主に獣医師から伝えることを、VGGは強く奨励する。

・毎年の健康診断は、年に1回の接種が必要なワクチンの種類を相談するだけでなく、それ以上の意味があるべきである。

・ほとんどのノンコアワクチンのDOIは約1年である。I

 

・獣医師は、健康診断に先立って、あるいは健診の際に、ペットや飼い主、病院スタッフの経験を向上させるようなトレーニングを受けることも推奨される。

・フリーフェアトレーニングプログラム(https://fearfreepets.com/fear-free-certification-overview/)やキャットフレンドリー認定プログラム(https://catvets.com/cfp/cat-friendly-certificate-program/)はその例として挙げられる。

 

・VGGはシェルターや保護施設におけるワクチンの使用も考慮しており、そういった施設での運営下では資金的な制約があることも認識している。

・VGGは、最低でもすべてのイヌネコはそのような施設に入る前、あるいは入る際にコアワクチン(弱毒生ワクチン)での予防接種をするべきであると言及している。

・資金的に可能であれば、接種は4週齢から開始し、2-3週ごとに5カ月齢まで実施するべきである。

・呼吸器疾患に対するワクチンは、典型的な家庭のイヌであればノンコアであると考慮されるが、シェルター管理のイヌではコアワクチンと考えるべきである。

 

・VGGは副反応報告機構の重要性について認識している。しかし、それらがその国々で異なる報告システムとなっていることも理解している。

・獣医師は、知識の基盤をより十分なものとし、より安全性の高いワクチンを開発するために製造業者や監督権限の持ち主が副反応の可能性がある事象すべてを報告するよう奨励すべきである。

 

・VGGが述べる基本的な考え方は、下記文章にて簡潔にまとめられる。

・私たちはすべてのイヌネコにコアワクチンを接種できるよう努力するべきである。

・ノンコアワクチンは、個々のペットの生活様式感染症の流行状態を熟慮し選択するとよい。

・コア or ノンコアワクチンは適切に保管され接種されるべきであり、ライフスタイルや旅行先に関わらず、ペットの一生を防御できるように必要最低頻度でのみ使用する。